企業による統治はめずらしいものではなかった(過去形)
昨日、消えてしまったと嘆いた記事をなんとか書き直しました。
一度は書いた文章なのですが、いざとなるとなかなか思い出せず、当初とは違ってしまうだけでなく予定より長くなってしまいました。
【日本の半独立国】会社統治領・大東諸島 - 歴ログ -世界史専門ブログ-
さすがに玉置氏のエピソードを読む限り、強欲でしたたかではあるものの、あくまでも利潤の追求という商売であり、カイジに出てくる帝愛グループの地下帝国とはかなり異なるのではないでしょうか。
そもそも例の地下帝国は、利益が出ているのかどうかもあやしく、あの会長さんの志向が強かったんじゃないかとおもいますが、さて。
ところで企業による統治の話です。
近代に入り、企業が政府の権限の一部あるいは大部分を持って地域を統治するという構図はそれほどめずらしいものではありませんでした。
満鉄と鉄道附属地
たとえば戦前日本でしたら、満鉄こと南満州鉄道会社による鉄道附属地の統治が有名でしょうか。
鉄道附属地では満鉄は警察と司法以外の行政権をほぼ委託され、産業はもとより教育、医療にいたるまでほぼすべてのインフラを整備し、事実上の徴税まで行っていました。
これらの運営は満鉄の地方部の役割でしたが、小さな附属地では駅長が行政のトップを兼ねることもありました。
ユニークなのは地方委員の選挙で、戸数割課税対象であれば、成年男性に限らず、女性や未成年でも選挙権が与えられていました。日本で女性に選挙権が認められたのが戦後に入ってからですので、かなり先進的な社会でもありました。
鉄道附属地とはいっても線路を引く土地であるというような規定があるわけでもないため、満鉄は次々と周囲の土地を中国人の地主から買収してきます。
満州国による支配の一元化をはかる軍部にとっては次第に利害が対立する存在となり、鉄道附属地は満州国へと返還されることとなります。
イギリス東インド会社
世界史上でもっとも有名な企業による統治は、やはりイギリスの東インド会社をおいてはありえないでしょう。
この当時はフランスやスウェーデンなど、各国でアジア圏との通商を行う東インド会社が設立されましたが、やはり現地の実効支配を伴ったイギリスの東インド会社がもっとも有名です。
(会社の歴史上、実際は複数の会社がかかわっているのですが、その辺は面倒なので東インド会社と一口にまとめています)
貿易の独占にはじまり、現地政府や軍隊の編成、徴税、通貨発行などに加え、相手が限定的ながら宣戦布告の権限まで、軍政両面の強大な権限を有する会社です。
その統治下も、ムガール帝国を中心としたインドだけでなく、東南アジアまで手を広げていきました。
東インド会社の行動のひとつひとつが、この時代の世界にとって大きな影響があったことは間違いありません。
ただ、会社が力を増すほどに本国からの監視の目も強くなり、次第にその力は削がれていくことになります。
企業による統治は出現するのだろうか
上記はいずれも戦前の企業の話です。
では近代の企業による統治があり得るかといえば、おそらくかなり難しいだろうというのが個人としての見解です。
満鉄にしろ東インド会社にしろ国策会社としての出発であり、国家の意向の強い会社ではあるのですが、中央の政府から離れた場所で統治に必要な多大な権限を与えられた場合、力が増大すればするほど危険視され政府からの圧力は強まるのは必然です。
そもそも、せいぜい企業に与えるのは採掘権や通商の独占レベルであり、徴税、司法、軍、通貨発行などの国家が重要視している権限を与えることは、よほど政治的な条件がそろわない限り、まず可能性がないと考えた方がよいとおもいます。
では設立当初からの民間、たとえばGoogleやAppleなど、よく帝国に喩えられるイマドキのIT系企業ではどうかと考えると、やはりこれも難しそうです。
企業は法人であり、その組織を肯定するものは法律ですから、どうしても立法と司法を握る政府に対しては弱くなります。
仮に上記の会社が(企業マインド的にはあまり想像はできませんが)野心を抱いて実行したとしても、強大な勢力を保持できる状況であればあるほど各国家がそれを許さないでしょう。
今でも租税回避問題などで各国の圧力が強まっている状態であり、それ以上の締め付けが起こるのは目に見えています。
かといって国家に睨まれないほどの規模ならば、おそらく経済的に成り立たないでしょう。
遊びとしてはおもしろいのですが、この手の企業が領域的にも世界支配を企むとすればと脳内でシミュレートしてみると、やっぱりすぐに手詰まりになってしまいます。
あるとすれば、やっぱり宇宙進出時代からでしょうか。